オルタナティブ写真

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オルタナティブ写真って?

オルタナティブ写真、あるいはオルタナティブ・プロセスという言葉を聞いたことがあるでしょうか?近年、写真の主流は疑いようもなく”デジタル”である昨今ですが、誰でも撮れる、誰でも作れる一般的なデジタル写真のアプローチに飽き足りないヨーロッパの写真家が始めたメソッドだ、と言われています。
現在の写真技法に、それ以外の手法をミックス、組み合わせて新しい可能性を得るもの・・”Alternative=別の選択肢”を得る表現方法を指していて、具体的には一般的なデジタル撮影もしくはフイルム撮影したものを、銀塩写真以前の古典的な技法でプリントするプロセス、と呼ばれています。

 

様々なプロセスが今も試せる

オルタナティブ写真、と一口に行っても、様々な技法がありますが、現在も行われている代表的なものは

  • サイアノタイプ
  • プラチナパラジウム
  • ヴァンダイク
  • 鶏卵紙
  • オイルプリント

あたりかと思います。例えばサイアノタイプは鉄塩(鉄の化合物)と紺青(顔料)を生成するヘキサシアノ鉄酸塩の反応で像を形成し、美しいブルーの発色を特徴とする印画法です。また、プラチナパラジウムは同じく鉄塩をベースとし、鉄塩が感光した箇所をプラチナ、パラジウムの化合物で置換する手法で、白金族の金属特有の安定性と豊かなグレーの諧調を誇ります。
個々のプロセスを解説できるほどは詳しくないのでここでは割愛しますが^^;、要するに感光性を持つ物質の化学反応を利用した印画方法、ということになります。
写真の歴史としては、このような古典技法からスタートし、やがて安価でかつ露光時間が短いことで拡大プリントが可能なゼラチンシルバープリントが大々的に普及していき、一旦は古典技法は廃れてしまうのですが、冒頭の通りオルタナティブ写真として再注目されてきている、といった過程を歩んでいます。

 

支持体の自由度が高い

オルタナティブ写真の特徴に一つに、支持体の選択肢の広さがあると思っています。かたっ苦しく”支持体”なんて言いましたが、要するに何にプリントするか・・大概の場合は紙です。
なぜ紙、と素直に言わないのか、というと、感光液を塗ることさえできて、現像、定着液にくぐらせることができる形態であれば紙以外のものにプリントすることも可能だからです。
例えば布です。

オルタナティブ写真手法の一つ、サイアノタイプを使って、絹の布にプリントされた素晴らしい作品を拝見したことがあります。

Copyright 2015 佐藤素子 All Rights Reserved.

写真家、佐藤素子さんの作品で、正絹布地にサイアノ感光液を塗り、デジタルネガにプリントしたネガ像を配置して日光で焼き付けしたもので、タペストリ風の仕立てとなっています。
正絹の揺らぎや透過によって、もともと美しいサイアノのブルーが一層透明感をまし、叙情的な世界観を作り出しています。
(掲載にあたってはご承諾を頂いております)

また、ごく薄い和紙などにもプリントすることができます。
自分のプリントで恐縮ですが^^;、PGI社から販売されているプラチナパラジウムプリント用の雁皮和紙、土佐白金紙にプリントした例です。
ごく薄いプリントなので、ライトテーブルで裏から照らして透過させて見ています。

 

こういう表現はデジタル撮影→インクジェットプリント、といった画一的なプロセスで生み出すことがなかなか難しく、オルタナティブ写真を用いる目的の一つとなっています。

 

フィルム撮影ができなくても・・

オルタナティブ写真は、ゼラチンシルバープリントほど感光性能が高くないものが殆ど(全部?)なので、基本引き伸ばしができません。
なので、以前はプリントする大きさと同じネガを用意して、密着焼きをする必要がありました。つまり、4*5版のような中版、あるいは8*10やそれ以上の大判でのフィルム撮影が前提としてあったため非常に敷居が高い面がありました。が、今はとても便利なものが出ています。
デジタルネガです。

ピクトリコ ピクトリコプロ・デジタルネガフィルムTPS100(レターサイズ/20枚入り) TPS100N-LTR/20

インクジェット用の高品質プリント紙で有名な、ピクトリコから出されているこのシートは、昔の”OHP”(といっても最早知らない方も沢山でしょうか・・^^;)用のシートのような形態をしており、乳白色の半透明シートになっています。
インクジェットプリントで印刷ができるシートになっていて、デジタルカメラで撮影したデータをモノクロ化し、ポジネガと左右反転させた状態でプリンタでプリントしてやることで大きなネガを手軽に作成することができます。
データのモノクロ化やポジネガ反転はPhotoshopのようなソフトウェアがお使いになれるのであれあばそんなに大変なプロセスではありませんが、後述するオルタナティブ写真対応のラボにデータの形で持込めばネガの印刷などもやっていただくことができます。

 

 

まずは体験して見ては如何でしょう?

特殊なプロセスなので、最初から自宅でやったりするのはとても難しいと思いますが、いくつかのラボが開催するワークショップなどで、魅力に触れることができます。
東京のラボを一つご紹介しますと、

田村写真

は様々なプロセスを独自に研究しており、オルタナティブ写真の魅力に触れることができます。
サイアノ、ヴァンダイク、プラチナパラジウム、ソルトプリント、オイルプリントの各ワークショップのほか、湿板写真などの技術もお持ちです。
ワークショップではなく、データを送って指定した手法でプリントを作っていただくことも可能です。
また、少し前の文でプリントと同じ大きさのネガを作って密着焼きが基本・・と書いたのですが、従来の技術を覆して35mmネガや6*6、6*7などのモノクロフィルムから引き伸ばしてプラチナパラジウムやサイアノのプリントを作る独自の技術を開発されていますので、これらのネガを持ち込んでオルタナティブ写真を制作していただくことも可能です。

田村写真でプラチナパラジウムプリントの現像作業中です。

オルタナティブ写真は、あくまで表現の手段のうちの一つです。
これで写真を作っていること自体が目標になったり、自己満足になってしまうもはどうかと思いますが、今まで自分の器の中になかった表現の手段を知ることは、ご自身の写真制作の幅を広げることに繋がる可能性があるかもしれません。

多くの写真がモニタに表示される映像データ・・あるいはSDカードやHDDから出てくることもない電気的なデータのまま失われていくサイクルになっている昨今、一枚一枚、物質の化学反応を起こしながら、”モノ”として姿に表す行為は、きっと何かの気づきをもたらすのではないかと思うのです。

RM