各社100mm中望遠の傾向
ソニーFEマウント(フルサイズ対応Eマウント)の100mm中望遠レンズは、他メーカーのそれとは明らかに方向性が異なっています。
多くのメーカーは、この焦点域の看板レンズにはマクロレンズを持ってきています。キヤノンのLレンズマクロ、EF 100mmF2.8L Macro IS USMであり、CarlZeissのMakro-Planar T* 2/100などがそうです。SONYもFEマウントでは90mmではF2.8のマクロレンズを出しています。
STFとは
では、SONYの100mmのレンズはマクロではなくなんなのか?というと、SONY FE 100mm F2.8 STF GM OSS、STFと呼ばれるレンズとなっています。
名前に含まれる”STF”は、Smooth Trans Focusの略称です。
以下に、それに関するウンチクを引用いたします。
新開発のアポダイゼーション(APD)光学エレメントを採用。ピント面からデフォーカス(ピントが合っていない)部分への遷移や、明るい部分の輪郭などをSTFレンズ特有の洗練されたぼけ味でなめらかに描きます。また、通常大口径レンズの画面周辺で目立ちやすいぼけ像の歪み(口径食)を本レンズでは徹底的に抑制。画面全域で、美しい円形ぼけを実現します。主被写体を際立たせるだけでなく映像全体に自然な立体感をもたらし、作品を印象的に仕上げます。
APD:レンズの中心から周辺にかけて透過光量が低減する一種のNDフィルターのような効果を持っています。
引用元:Sonyプレスリリース
周辺に向かって滑らかに減光していく特殊なフィルターエレメント、アポダイゼーションエレメントを使用することで、ボケ像の輪郭を極めて滑らかに描く特徴を持っています。
このレンズの開放F値はF2.8なのですが、引用にもある通り、APDは一種のNDフィルターなので少し光の量が減って、実際はF5.6相当の光量になります。この、APD込みの光量を表すためにTナンバーという指標を用いて、100mm STF F2.8[T5.6]という表記で示される場合もあります。
もともとはミノルタが設計した唯一無二の技術、レンズとして知られていました。それをSONYが継承してAマウント向けに135mmF2.8 STF[T4.5]が出されていましたが、それがFEマウント向けに新設計されて、しかもAFを搭載してリリースされました。STFレンズはAPDで光の加減が行われてしまうため、位相差AFの実現が難しいとされていて、今までは全てMF専用だったのです。
2014年にはフジが同様のAPDを搭載したXF56mmF1.2 R APDをリリースしていますし、先日はキヤノンも同様の特許を出願中、というニュースが流れていました。また、中国のレンズベンダーであるLAOWAも105mm f/2(T3.2)という極めて明るいSTFレンズを発売していて、じわじわと各社力を入れている分野のレンズと言えます。
極めて滑らかなボケ描写
私自身は実はレンズのボケの質には疎い・・というか鈍くて、このレンズはボケが汚い、と言われてもボケが汚いってなんやねん?ぐらいにしか感じず、よっぽどの・・例えばレトロな設計の大口径レンズの開放撮影などでよくできる”グルグルボケ”や、細かい線上のボケが二重に見えたりする”二線ボケ”などはさすがにわかりますが(別にグルグルも二線ボケも嫌いでもないですがw)、そんな鈍感な私でも、このレンズのボケはなにか違う、とわかります(笑)
作例とか出すほどの腕前がないので恥ずかしいのですが・・
以降の撮影は、全て開放(F2.8, T5.6)で行なっております。
玉ボケもSTFレンズのそれは明らかに異なります。まさしくAPDの効果で中心から外縁に向かって極めて滑らかに描写されます。あまりに滑らかすぎて、場合によってはむしろ不自然に感じるケースすらあるかもしれません。
あえてアウトフォーカスさせて玉ボケを写して見ました。
STFでしか得られない画像ではありますが、これはちょっと使い方を選ぶかもしれませんね。
あとはフォーカスリミッタを備えていて至近距離(0.57m – 1.0m)と遠距離(0.85m – ∞)を切り替えることができ、近距離側では準マクロレンズ的に使うこともできます。
以下はマクロ域を使って、最短距離で撮影しています。
欠点も少し
何度か書いている通り、開放はF2.8ですがAPD作用によって実際の光量は二段分下がります。このため、露出の感覚が少し通常のレンズとは異なって使いづらいかもしれません。
また、シャッタースピードも遅くなりますので、三脚を使う、感度をあげてシャッタースピードを稼ぐ、など何か対策を講じるケースもあるでしょう。
しかし、大抵のケースで上記二点は大した問題ではありません。
ソニー SONY 単焦点レンズ FE 100mm F2.8 STF GM OSS Eマウント35mmフルサイズ対応 SEL100F28GM
開放で楽しむキラーレンズ
基本的には開放で、そしてボケの表現に使うためのレンズということになるかと思います。
それを意識してのことなのか、ボケだけではなく、開放から驚くほど解像するレンズでもあります。キレキレの合焦部分とヌルヌルに滑らかのボケの部分の落差が大きいので、極めて立体感、空気感を感じさせるような写りをします。
私はこのレンズを、あまり画素数が多くないα7SIIで利用することが多いのですが、高画素機であるα7Rシリーズでも全く問題なく使えると思います。
だいたい、どこのメーカーにも”このレンズを使うためにこのマウントを使う”と思わせるキラーコンテンツならぬキラーレンズが存在するものですが、この100mmSTFはまさにFEマウントのキラーレンズと言って過言ではないかもしれません。